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BHセミナー「『科学革命』を読む」第3回レジメ

 

Very Short Introductions: Scientific Revolution No.266

Very Short Introductions: Scientific Revolution No.266

  • 作者: Lawrence M. Principe
  • 出版社/メーカー: Oxford University Press (Japan) Ltd.
  • 発売日: 2011/05/19
  • メディア: ペーパーバック
  • クリック: 22回
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科学革命 (サイエンス・パレット)

科学革命 (サイエンス・パレット)

 

Scientific Revolution: A Very Short Introduction ,Lawrence M. Principe,Oxford University Press; 1st edition (May 19, 2011) p39-p66

 

【第三章 月より上の世界】

科学革命の起きた1500年頃の知識人にとって、宇宙は月の下と月の上の二つにわかれていました。これはアリストテレスによって設けられたもので、月の下、すなわち地上は変化のたえない領域であり、月の上、すなわち天空は不変の領域であるとされました。このうち月の上の構造についての学問、すなわち天文学が、科学革命の主要な分野を担うことになります。

 天体の動きを物理的・数学的に説明するために、古代のギリシアの人々は星々の観察を始めました。比較的遅く運動する星を「恒星」と名づけ、それに対してよく動くように見える星を「惑星」と名付けました。それらの運動は黄道帯という狭い帯状の領域に限定されています。さらにその黄道帯を十二等分し、ひとつひとつに宮を割り当てました。

 このような天体の動きに関して、プラトンは、数学的法則によって動いていると考えていました。また、プラトンの弟子のエウドクソスは、地球を中心とした同心天球で組み立てられた、数学的な宇宙モデルを提案しました。しかしこのモデルは、観察されたものを正確に説明できないという難点がありました。惑星の明るさが変わることを、説明できなかったのです。この問題は、プトレマイオスの「周転円」のモデルにて説明されました。このことによって、地球の位置は天体の中心から端へ移ることになります。このプトレマイオスのモデルは数学的説明はなされましたが、重い物体は宇宙の中心へ落下するというアリストテレスの自然学との間に矛盾が生じることとなりました。中心にない地球は、中心へ動いているはずなのに、実際にはそうではなかったからです。この食い違いの折衷案を示したのが、イブン=アル・ハイサムでした。彼のモデルでは、中心に地球があったからです。しかしながらこのモデルにも問題点がありました。それらの問題点は中世ヨーロッパの天文学者達へ継承されていき、自然学的に満足のいく説明がなされるよう洗練されていきました。

 それまでと一転した案を提示したのが、コペルニクスでした。彼は、地球ではなく太陽を中心にすえたのです。このモデルは、地球を中心とするモデルよりも観測データに適合しないばかりか、自然学的にみても納得させるものでもありませんでした。そして最も問題だったのが、動く地球というのが自然学的にも、当時の常識にも、また聖書とも相反するものだった点です。しかしコペルニクス自身は、観測により証拠がなくても、この説が正しいと確信していました。人文主義者である彼は、プラトンより後の世につけられた付加物をとりのぞいた、より調和のとれたモデルが真の宇宙の姿であると考えていたのです。このコペルニクスの宇宙モデルは、天文学者にとって、真実でないにしても価値のあるものでした。というのも、惑星の位置を決定するための計算は、太陽を中心としたモデルのほうが簡単だったためです。当時の多くの天文学者にとっての第一の関心ごとは、ある時刻にどこに惑星があるかということでした。地球が中心か太陽が中心かどちらが正しいかということは、確実に説明できるものではないと考えられていたのです。また、これら天文学者の研究の背景には、惑星の位置を精密に計算する必要のある占星術がありました。多くの天文学者は、占星術によって生計を立てていたのです。

 天文学が天体の位置を計算し、宇宙モデルの仮説を提示していくのに対し、占星術は天体が地球におよぼす効果を説明し、あらかじめそれを把握しようとします。この占星術の営みは、太陽の位置が季節をつくることや月の満ち欠けが人体に影響を与えることからもわかるように、自然のしくみに依拠した合理的なものです。占星術にはいくつかの分野がありました。次の年の天気を予言する「気象占星術」、治療において天体の人体への影響を考慮するため用いられた「医療占星術」、天体の新生児への影響を読み解く「出生占星術」などです。占星術は、その人特有の気質を示し、健康であったり危険な時期、あるいは物事をするのに都合の良い時期を予測することで、人が行動する上での判断材料とすることもまた目的としていました。

 コペルニクスより後、ティコ・ブラーエの新星・彗星の観測によって旧来の宇宙観が根拠をなくし、ケプラーによって古代からの円運動の固定概念がうすれ、望遠鏡を用いたガリレオの観測によって月より下の世界と月より上の世界の本質的区別がなくなり、ついにはニュートンが天体の運行とりんごの落下を全く同じ数学的法則によって記述することに成功しました。

 しかしニュートンは、天体の運行を説明するだけでは満足しませんでした。これらのしくみの原因を見つけたいと考えていたのです。なぜなら彼は、太古の昔にあった知こそが真実であり、それが年を経るにしたがって廃れてきてしまっているという「原始の知恵」という考え方を信じ、世界に隠されている神の意志を読み解くことが使命であると考えていたためです。このように、近代的科学者と言われている彼の思想的背景には、現代よりもより包括的な視点があったのです。