【集中講義@駒場】ヒライ「ルネサンスの星辰医学」

前の記事と同じく、東大駒場集中講義より四日中三日目、学生発表「占星術」の項での私の発表のレジュメを掲載します。

→講義概要:講師ヒライさんより…http://www.geocities.jp/bhermes001/komaba.html

→講義概要:東大科学哲学研究室…http://hps.c.u-tokyo.ac.jp/graduate-school/curriculum/2014/post_35/index.php

論文はこちらからダウンロードできます。

学習院学術成果リポジトリhttp://glim-re.glim.gakushuin.ac.jp/handle/10959/3375

随所で紹介されています。

→坂本さん「オシテオサレテ」より:http://d.hatena.ne.jp/nikubeta/20140309/p1

→科哲・藤本さん:http://d.hatena.ne.jp/fujimoto_daishi/20131223/1387829749

集中講義を通して、インテクチュアルヒストリーの内容を扱いながらも、

報告者は研究の方法論に着目してコメントを出すような試みでした。

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検討論文:ヒライ「ルネサンスの星辰医学」『学習院女子大学紀要』、第16巻(2014年)、25-41頁

報告者:フェリス女学院大学国際交流学部二年 須田千晶



1.はじめに

ルネサンス期以前における医学の理論と実践には、占星術が影響していた。

 ⇒具体的には(1)受胎と出生(2)健康や病気における諸相の分かれ目(3)投薬のタイミングに対して。

ルネサンス期に、2つの要因によって医学と占星術の結びつきに変化がおこる。

 (1)ピコ・デラ・ミランドラの『占星術論駁』による占星術への批判。

    ⇒占いとしての面を排除し、運動・光・熱などの物理的要素のみを認める。

     ⇒16世紀前半に活躍した医学者、ジョヴァンニ・マイナルディやジローラモ・フラカストロへ影響を与える。

 (2)マルシオフィチーノによって、新プラトン主義的な世界観の中に錬金術占星術、自然魔術のアイデアを挿入。

     ⇒宇宙を巨大な生き物であり、それは世界霊魂によって支配されている。身体である宇宙と世界霊魂は、世界精気によってむすびつけられている。これらを適切に操作できる術師であれば、小さな宇宙たる人間の身体も適切に扱える。

 ⇒ピコ・デラ・ミランドラは霊魂を取り除き、マルシオフィチーノは霊魂をよい重視している。

2.レオニチェノの自然主義

・ピコの占星術批判と密接に結びついた論を展開。

・これまで形成力に対するガレノスの考えとされていたものに対して反論。

 ⇒中世人たちの、アリストテレスの『動物発生論』にみられる形成力の起源を天界におく見解は間違いであり、正しくは熱のことであると指摘。

  ⇒この熱は星辰的ではなく、それに似ているだけ。

 ⇒中世人の、地に対して天界の動きが影響するという考えを否定し、自然主義的に解釈する。

3.フェルネルの星辰医学

・ガレノスの医学思想を自然主義的に解釈するのは間違いであるとした。

プラトン主義を援用してガレノスの考えをキリスト教信仰に調和しようと試みる。

 ⇒フェルネルの著作『事物の隠れた原因について』にて、星辰的なものを探求。

  ⇒前半:アリストテレスに帰されていた著作『世界について』を重要視しながら、フィチーノ流のプラトン主義的理論を借用することで、世界精気についてのプラトンアリストテレス間の意見、さらに古代ギリシア人とキリスト教徒間の意見の一致をしめそうとする。

  ⇒後半:プラトン主義とキリスト教の調和をガレノスの中におくことで、独自のガレノス主義の構築を試みる。

      ⇒プラトン主義におけるすべての事物の創造主たる宇宙的知性と、キリスト教における事物の唯一の創造神を本質的な意味で同一視できるとした。

・ガレノスの霊魂の本性についての見解を再構築。

 ⇒ガレノスのいう精気よりも高位にある霊魂の実体を、非物体的なものであるとした。

・霊魂の星辰的な起源と不滅性を確立。

 ⇒ガレノスの師であるヒポクラテスの著書『肉について』の中の「霊魂は天界からくる」という一節に、霊魂の星辰的な起源をみる。

 ⇒同書の中の「私の考えでは、われわれが熱とよぶものは不滅であり、現在と未来にあるすべてを感知し、見聞きし、知っている」という一節をもとにフェルネル自身の自説である霊魂の不滅性を構築しようとする。さらにキリスト教的教義と一致することで、霊魂の不滅性について保証されるものとした。

・独自のガレノス解釈を元に、生物のなかの精気が神的で星辰的性格をおびていることを、死にさいして生物が失うものを精気の熱とすることで証明しようとする。

・フェルネルのいう「神的なもの」とは、アリストテレスのいうところの「星辰の元素に 呼応する」ありとあらゆるものであるとした。

 ⇒この元素とは、アリストテレスのいうところの第五元素「アイテール」である。

  ⇒不滅であり永遠。生物に精気と霊魂の諸能力を与え、形相を規定するもの。

4.ミゾ―における天と地の調和

・師フェルネルの医学における天と地の調和の考えを発展させる。

・ミゾ―は著作『アスクレピオスとウラニアの対話における医学と天文学の結合』によって自身の精神医学の理論的基礎を確立しようとする。

 ・ガレノスの『身体の部位の有用性について』という著作中の一節より、人体と星辰との類似性をもっていることをみる。

  ⇒人体のつくりを学ぶことは天界との調和を発見することにつながるとする。

 ・医学者・哲学者たちの共通の見解として、アイテールが天界と人間の親和性を理解する鍵であることをしめす。

 ・太陽を世界霊魂の可視的な似像とし、太陽と人間の身体の心臓とが結びついているとする。

  ⇒特筆すべきは、コペルニクス以前の流布前であるにもかかわらず、ここに太陽

中心主義があること。ただしこれはルネサンスプラトン主義的なものである。

5.カルダーノと宇宙的な熱

・医学における予後と占星は基盤を共有していることを指摘。

 ⇒これらの先駆者としてヒポクラテスをあげる。

ヒポクラテスの事物の起源と不滅性、三元素、宇宙的な熱の解釈をとおして、事物に生命を与える知性のある宇宙的熱が、世界霊魂やその似像にあたるという発想を展開。

 ⇒この理論は16世紀後半の星辰医学のテーマとなる。

 

6.ゲマと星辰医学の頂点

・ゲマ:ミゾーの友人で数学者であり地理学者であるゲマ・フリシウスの息子。

 ⇒フィチーノプラトン主義い大きく影響されている。

ヒポクラテスの重要性をとらえ、独自の解釈を展開していく。

 ⇒アリストテレスの種子にやどる熱の理論と、ヒポクラテスの知性のある宇宙的熱の考えを結び付ける。

・ゲマのは著書の中で、フェルネルの言う「神的なもの」は、ゲマにとって身体や精神の治療だけでなく、人間や社会の健全さを確立するために重要なものでありとの考えを示す。

・同書の中で、精気が宇宙と人間のどちらにも共通して重要なものであるとの考えを示す。

古代ギリシア人とキリスト教徒の調和を確立するため、ヒポクラテスを中心としてアレクサンドリアフィロンやモーゼをそこに並置し、さらにヘルメスプラトン主義者を結び付けることで、神的なものを探求する一学派を形成しする。

 ⇒ヒポクラテスが火と水とよんだものが、モーゼが『創世記』で天と地とよんだものと呼応することから。

  ⇒よって、ヒポクラテスの『養生について』は、モーゼの『創世記』、ヘルメスの『ピマンデル』、プラトンの『ティマイオス』と肩を並べる中心的で特権的な地位を得る。

   ⇒つまりはここに、ゲマがルネサンスの星辰医学を頂点にもっていったことが見える。

7.パラケルスス主義と普遍医薬の探求

・これまでで築かれた星辰医学の理論的基礎を元に、病理学や治療術、薬学への応用がなされる。

パラケルススは自然界すべての事物が生きているという考えのもと、極端ともいえるキリスト教者としての哲学を発展させていく。

・著作『パラグラーヌム』:後に新しい医学のマニフェストとなる。

 ⇒天文学を、医学をささえる4つの支柱のひとつとカウントする。

  ⇒天文学のなかで天と地との間の関係性を説き、天にある星辰的な精髄が地上界にもあるとし、これは蒸留術などによって驚くべき薬効をもつとした。

   ⇒パラケルスス支持者たちによって、すべての病気に有効な普遍医薬の理論へ発展

パラケルスス派キミストのデュシェーヌは普遍医薬についての議論を展開。

 ⇒星辰的な精髄が天を構成していて、それは地のすべての自然物に浸透している。

 ⇒真の医学哲学者はキミアの技によって事物の物質的な外殻を取り除き、健康と生命の保持のためにかかせない普遍医薬をつくりだせると主張。

・普遍医薬の存在を確立したデュシェーヌは、普遍医薬の起源の説明をするため、聖書の『創世記』における天地創造の物語の解釈に努める。

 ⇒プラトンアリストテレスといった古代人とヘルメス主義者(キミスト)の間の、意見の一致をしめすことを試みる。

・デュシェーヌの足跡を追ったキミストたちの中では、『創世記』のキミア的解釈と普遍医薬の探求が重要な位置を占めている。

 ⇒ここに、ルネサンス期の星辰医学が脈々と発展していったことがみえる。

●コメント

現代ではほぼ失われた霊魂や精気について、星辰医学の側面から追っていると言える。そもそも霊魂という概念が医学にないという、現代に通じるもののあるピコ・デラ・ミランドラの理論をしめしつつ、天と地との間に関連性を見出し、霊魂や精気を重要視するフェルネルやミゾ―、カルダーノ、ゲマ、そしてパラケルススパラケルスス主義者デュシェーヌの考えを追っている。差異はありながらも、天と地とを密接に関連付けていることにおいて共通している彼らの理論をみていくことで、霊魂や精気をという星辰において核となる概念を概観しつつ、ルネサンス期における医学にたいする占星術の影響を見ていっている。星辰における霊魂や精気をキーワードに、様々な捉え方を集めてその思考の過程を見ているところに、インテクチュアル・ヒストリーの手法が見いだせると言える。

 

【集中講義@駒場】平井浩「ルネサンスの種子の理論」

この夏、東大駒場で行われた夏期集中講義に参加してきました。

4日中2日目、23日(水)の学生発表「キミア」の項で発表をしましたので、そのレジュメを掲載します。

→講義概要:講師ヒライさんより…http://www.geocities.jp/bhermes001/komaba.html

→講義概要:東大科学哲学研究室…http://hps.c.u-tokyo.ac.jp/graduate-school/curriculum/2014/post_35/index.php

 

この論文は著者のホームページでも公開されています。

→参照:http://www.geocities.co.jp/Technopolis/9866/shiso.html

 

また、随所で紹介されています。

→東大科哲藤本さん:http://d.hatena.ne.jp/fujimoto_daishi/20130209/1360427142

→紺野氏のブログ「石版!」より:http://sekibang.blogspot.jp/2010/04/200212.html

 

集中講義を通して、インテクチュアルヒストリーの内容を扱いながらも、

報告者は研究の方法論に着目してコメントを出すような試みでした。

 

 

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検討文献:平井浩「ルネサンスの種子の理論――中世哲学と近代科学をつなぐミッシング・リンク

『思想』944、2002年、129–152頁。

報告者:フェリス女学院大学国際交流学部二年 須田千晶 

 

1.はじめに

・種子とは

 ⇒各事物の個性を決定するもの。

 (例)現代の生物学における遺伝子、化学における分子、

    アリストテレス主義スコラ哲学における形相。

・本稿におけるルネサンスの種子の理論の位置づけ

 ⇒中世哲学の形相理論と科学革命期の機械論的分子理論のミッシングリンク

 

2.古代・中世における種子の概念

ルネサンス以前の種子の理論

 ⇒ソクラテス以前の哲学者たち:宇宙や事物の起源

 ⇒プラトン:自然の各存在の不滅の部分(創造主である父なる神によって準備された)

 ⇒ストア派:ロゴイ・スペルマティコイ

・ロゴイ・スペルマティコイとは

 ⇒能動的原理として物質の中に内在し、各自然物の種の個別性を伝達・保存するもの。

 ⇒プロティノス:質料に加えられることで諸物体を成り立たせるもの

  ⇒聖アウグスティヌスはこれを聖書の教えと日常生活とを両立する試みに取り入れる

・種子の理論の衰退と存続

 ⇒アリストテレス主義におされ、衰退。

 ⇒古代原子論の中に存続(特にアラビア錬金術における硫黄と水銀による二原質理論において)

 

3.フィチーノルネサンス型種子の理論の誕生~

フィチーノフィレンツェの哲学者でプラトンプロティノスの翻訳者

 ⇒プラトンの種子の理論を介して、プラトン主義形而上学アリストテレス主義自然学を従属させようとする。

  ⇒古代のロゴイ・スペルマティコイの理論が復活(アウグスティヌス以降類なし)

・フランス人医師フェルネルへの影響

 ⇒種子の理論を医学教育に持ち込む

 ⇒ガレノス主義的である自らの医学思想の根幹におき、ガレノス医学とキリスト教信仰の調和を図る。

 

4.パラケルススアウグスティヌスの影の下に~

パラケルススの考えの根幹

 ⇒事物は硫黄・塩・水銀の三原質からなっている。

 ⇒種子とは、硫黄・塩・水銀の三原質が三位一体的にまとまったものである。また、神が天地創造の際「何かを無から創造した」とされているこの「何か」こそが種子である。

・種子の理論を自然学へ応用

 ⇒種子の理論を、広範な自然現象へ関連付けただけでなく、天地創造論までカバー。

 

5.セヴェリヌスと種子の哲学の確立

・フェルネルとパラケルススの理論を体系化

 ⇒特にパラケルススの権威を確立することに努める。

  ⇒パラケルススの持つ三原質の理論を、プラトンアリストテレスらの考えと矛盾しないとの確信から。

  ⇒後に登場するパラケルスス主義化学哲学の金字塔的著作の理論的根拠を成す。

   ⇒「種子の哲学」の中心的概念へ

 

6.ファン・ヘルモントとキミア的種子の理論完成

・ファン・ヘルモント:パラケルスス主義者。その著作内で展開される種子の理論には、セヴェリヌスの影響が強くみられる。

 ⇒特にセヴェリヌスの『哲学的医学のイデア』からの牽引がみられる。

 ⇒セヴェリヌスとの違い…パラケルススの中にある聖書の『創世記』の諸概念の導入

・中世後期の錬金術師である偽ゲベルの、錬金術における粒子論的物質理論の受容と種子の理論とを結び付ける

 ⇒その後の、種子の概念の粒子論的再解釈の場を与えることとなる

 

7.ガッサンディと種子の理論の粒子的な再解釈

ガッサンディの種子の理論を正しく認識するにはキミアが鍵となることを指摘。

 ⇒それを踏まえて注意深く探ると、真の典拠としてセヴェリヌスの『哲学的医学のイデア』を見つけることができる。

・粒子論的に再解釈

 ⇒ガッサンディにとって不可視である種子は、原子が空間的にある秩序で結びついた分子と理解。

 

8.むすび

・機械論的分子理論へつながっていく

 ⇒ファンヘルモントの種子の理論とガッサンディの分子の理論は、17世紀後半にボイルをはじめとする多くの科学者の物質理論に影響を与えた。

ルネサンスの種子の理論のその後

 ⇒ファン・ヘルモントの息子と交友を深めた晩年のライプニッツモナドの理論へと流れていく。

 

 

≪コメント≫

それぞれに影響を与えた考えや真の典拠を探っていくことで、一見隔絶しているように見える者の間に共通点を見出すことに成功している。本稿では、大学に身をおくフェルネルと放浪の身であったパラケルスス、それから、合理的な”機械論者”といわれる原子論者ガッサンディ神秘主義錬金術師というレッテルをはられて片づけられがちなファン・ヘルモントとの間に特にそれがみられ、このことが、この科学革命期から始まる機械論と中世哲学の形相理論の間に、見落としてしまっている種子の理論の発見と位置づけを成功させているといえる。そのためには、明記されている出典だけでなく、著者らの思考にかかわったできるだけすべてを、蔵書や時には原稿の余白にまで目を向けるなど丹念に見ていく必要があることも、本稿の中で語られていると言える。

 

 

立ち上げ

独検が終わり、ひと段落です。

夏に強化せねば。

 

ソーシャルな場を活用できたらと思って、ブログを立ち上げてみました。

twitterFacebookもあるわけですが、各々どういう役割か今一度整理しなければです。

 

今日はといえば、ゼミの発表がありました。

新型出生前診断についてとりあげ、馬橋先生から事実婚にも着目するとよいとアドバイスをいただきました。

せっかくなので、この授業の期末レポートのテーマも出生前診断にしようかなと思ってます。

予想していたより、高齢出産のパーセンテージが高くてびっくりです。

私も、他人事じゃないなあとしみじみ。