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【集中講義@駒場】平井浩「ルネサンスの種子の理論」

科学史 研究会

この夏、東大駒場で行われた夏期集中講義に参加してきました。

4日中2日目、23日(水)の学生発表「キミア」の項で発表をしましたので、そのレジュメを掲載します。

→講義概要:講師ヒライさんより…http://www.geocities.jp/bhermes001/komaba.html

→講義概要:東大科学哲学研究室…http://hps.c.u-tokyo.ac.jp/graduate-school/curriculum/2014/post_35/index.php

 

この論文は著者のホームページでも公開されています。

→参照:http://www.geocities.co.jp/Technopolis/9866/shiso.html

 

また、随所で紹介されています。

→東大科哲藤本さん:http://d.hatena.ne.jp/fujimoto_daishi/20130209/1360427142

→紺野氏のブログ「石版!」より:http://sekibang.blogspot.jp/2010/04/200212.html

 

集中講義を通して、インテクチュアルヒストリーの内容を扱いながらも、

報告者は研究の方法論に着目してコメントを出すような試みでした。

 

 

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検討文献:平井浩「ルネサンスの種子の理論――中世哲学と近代科学をつなぐミッシング・リンク

『思想』944、2002年、129–152頁。

報告者:フェリス女学院大学国際交流学部二年 須田千晶 

 

1.はじめに

・種子とは

 ⇒各事物の個性を決定するもの。

 (例)現代の生物学における遺伝子、化学における分子、

    アリストテレス主義スコラ哲学における形相。

・本稿におけるルネサンスの種子の理論の位置づけ

 ⇒中世哲学の形相理論と科学革命期の機械論的分子理論のミッシングリンク

 

2.古代・中世における種子の概念

ルネサンス以前の種子の理論

 ⇒ソクラテス以前の哲学者たち:宇宙や事物の起源

 ⇒プラトン:自然の各存在の不滅の部分(創造主である父なる神によって準備された)

 ⇒ストア派:ロゴイ・スペルマティコイ

・ロゴイ・スペルマティコイとは

 ⇒能動的原理として物質の中に内在し、各自然物の種の個別性を伝達・保存するもの。

 ⇒プロティノス:質料に加えられることで諸物体を成り立たせるもの

  ⇒聖アウグスティヌスはこれを聖書の教えと日常生活とを両立する試みに取り入れる

・種子の理論の衰退と存続

 ⇒アリストテレス主義におされ、衰退。

 ⇒古代原子論の中に存続(特にアラビア錬金術における硫黄と水銀による二原質理論において)

 

3.フィチーノルネサンス型種子の理論の誕生~

フィチーノフィレンツェの哲学者でプラトンプロティノスの翻訳者

 ⇒プラトンの種子の理論を介して、プラトン主義形而上学アリストテレス主義自然学を従属させようとする。

  ⇒古代のロゴイ・スペルマティコイの理論が復活(アウグスティヌス以降類なし)

・フランス人医師フェルネルへの影響

 ⇒種子の理論を医学教育に持ち込む

 ⇒ガレノス主義的である自らの医学思想の根幹におき、ガレノス医学とキリスト教信仰の調和を図る。

 

4.パラケルススアウグスティヌスの影の下に~

パラケルススの考えの根幹

 ⇒事物は硫黄・塩・水銀の三原質からなっている。

 ⇒種子とは、硫黄・塩・水銀の三原質が三位一体的にまとまったものである。また、神が天地創造の際「何かを無から創造した」とされているこの「何か」こそが種子である。

・種子の理論を自然学へ応用

 ⇒種子の理論を、広範な自然現象へ関連付けただけでなく、天地創造論までカバー。

 

5.セヴェリヌスと種子の哲学の確立

・フェルネルとパラケルススの理論を体系化

 ⇒特にパラケルススの権威を確立することに努める。

  ⇒パラケルススの持つ三原質の理論を、プラトンアリストテレスらの考えと矛盾しないとの確信から。

  ⇒後に登場するパラケルスス主義化学哲学の金字塔的著作の理論的根拠を成す。

   ⇒「種子の哲学」の中心的概念へ

 

6.ファン・ヘルモントとキミア的種子の理論完成

・ファン・ヘルモント:パラケルスス主義者。その著作内で展開される種子の理論には、セヴェリヌスの影響が強くみられる。

 ⇒特にセヴェリヌスの『哲学的医学のイデア』からの牽引がみられる。

 ⇒セヴェリヌスとの違い…パラケルススの中にある聖書の『創世記』の諸概念の導入

・中世後期の錬金術師である偽ゲベルの、錬金術における粒子論的物質理論の受容と種子の理論とを結び付ける

 ⇒その後の、種子の概念の粒子論的再解釈の場を与えることとなる

 

7.ガッサンディと種子の理論の粒子的な再解釈

ガッサンディの種子の理論を正しく認識するにはキミアが鍵となることを指摘。

 ⇒それを踏まえて注意深く探ると、真の典拠としてセヴェリヌスの『哲学的医学のイデア』を見つけることができる。

・粒子論的に再解釈

 ⇒ガッサンディにとって不可視である種子は、原子が空間的にある秩序で結びついた分子と理解。

 

8.むすび

・機械論的分子理論へつながっていく

 ⇒ファンヘルモントの種子の理論とガッサンディの分子の理論は、17世紀後半にボイルをはじめとする多くの科学者の物質理論に影響を与えた。

ルネサンスの種子の理論のその後

 ⇒ファン・ヘルモントの息子と交友を深めた晩年のライプニッツモナドの理論へと流れていく。

 

 

≪コメント≫

それぞれに影響を与えた考えや真の典拠を探っていくことで、一見隔絶しているように見える者の間に共通点を見出すことに成功している。本稿では、大学に身をおくフェルネルと放浪の身であったパラケルスス、それから、合理的な”機械論者”といわれる原子論者ガッサンディ神秘主義錬金術師というレッテルをはられて片づけられがちなファン・ヘルモントとの間に特にそれがみられ、このことが、この科学革命期から始まる機械論と中世哲学の形相理論の間に、見落としてしまっている種子の理論の発見と位置づけを成功させているといえる。そのためには、明記されている出典だけでなく、著者らの思考にかかわったできるだけすべてを、蔵書や時には原稿の余白にまで目を向けるなど丹念に見ていく必要があることも、本稿の中で語られていると言える。